平成30年(2018年)7月1日東京都社会保険労務士会会報に寄稿

 同一(価値)労働同一賃金の考え方は、ヴェルサイユ条約(1919年)の第427条(労働者の権利の章典)第7項「男女は、同一価値の労働に対し、同一賃金を支払われなければならないという原則」にはじまります。
 EU諸国においては性別・人種などの個人の意思・努力では変えられない属性等を理由とする差別的取扱いを禁止する原則として確立されてきた概念(中央大学法学部唐津博教授-平28.6.25社会保険労務士白門会講演より)です。

 今般の「同一労働同一賃金」の目的は、平成30年度労働政策重点事項(平29.9.15)の一つとして掲げられているように、「非正規雇用の処遇改善」と捉えられます。

1.改正法を読む
<均衡と均等>

 働き方改革関連法のなかで、「同一労働同一賃金」に関する核心となるところは、これまでのパート法を「パートタイム・有期雇用労働法(以下、「法」という)」とし、労契法旧20条(期間の定めのあることによる不合理な労働条件の禁止)をパート法旧8条(短時間労働者の待遇の原則)に統合した次の条文です。


法第8条(不合理な待遇の禁止
 事業主、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の~
 (1) 業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)
 (2) 当該職務の内容及び配置の変更の範囲
 (3) その他の事情
 ~のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない


・ 「不合理な待遇の禁止」:続く法9条では「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者」ついては「待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない(差別禁止)」として「均等」を求めているのに対して、この法8条は「均衡(不合理ではないバランス)」を求めています。
 この「均衡」とは「合理的なものでなければならない」ということではありません。
 端的に言って同一であれば均等、相違があるならば均衡です。
・ 「事業主は」:規制の範囲が事業場単位でないことは労契法・パート法の旧2条項の解釈も同様でしたが、あらためて均衡させる主体である事業主は「不合理」と認められる「相違を設けてはならない」としています。
・ 「待遇のそれぞれについて」:短時間・有期雇用労働者と比較対象となる通常の労働者と間の(労働条件より広い)待遇の相違を総合的に勘案して判断するのではなく、個別の(労働条件が含まれる)待遇のそれぞれについて検討され判断されるものと読みとれます。
・ 「のうち」:3つの考慮する点は労契法旧20条とパート法旧8条・9条と同様ですが、そこから当該待遇の性質・目的に照らして適切と認められるものを考慮するという、考慮要件ではなく、あらためて考慮要素であることを示しています。

<3つの考慮要素>
 3要素は、第1要素「責任の重さを含む職務の内容」の空間的・質量的な職務価値だけでなく、第2要素「当該職務の内容及び配置の変更の範囲」を挙げ、それを労契法施行通達(平24.8.10基発0810第2号)では「今後の見込みも含め、転勤、昇進といった人事異動や本人の役割の変化等(配置の変更を伴わない職務の内容の変更を含む。)の有無や範囲を指すもの」としています。
 そうすると、この第2要素には当該企業の人材の育成・活用の仕組みと運用、すなわち各々の時間性を有した人事制度が含まれていることになります。
 第3要素「その他の事情」には、同施行通達では「合理的な労使の慣行などの諸事情が想定される」とされ、定年後の継続雇用を例示していますが、この「諸事情」には各々の第1要素・第2要素に付随・関連したものをはじめ、人事・労務管理上の諸施策(労使関係を含む)が幅広く含まれているものと捉えられます。

2.裁判例から
 ここ数年、メトロコマース事件(東京地判平29.3.23)、ヤマト運輸事件(仙台地判平29.3.30)、一連の日本郵便事件(佐賀地判平29.3.30、東京地判平29.9.24、大阪地判平30.2.21)など不合理禁止に関する裁判が続いてきました。
 これらの裁判例は、使用者の人材育成・活用面の要素への配慮を含め、比較対象となる通常の労働者と各種手当の性格等によって多様なものとなっています。
 中央大学法科大学院山田省三教授は「その要点は、差別禁止及び不合理禁止の判断に関し、それが合理的であるか不合理であるかの要素の分析の中の中間にグレーゾーンが存在しているところにある。そこには、差別禁止規定に該当しなければ合理的ではなくとも不合理禁止にはあたらないとの枠組みが生まれつつある(平29.12.9社会保険労務士白門会講演より)」と予見されていました。
 今般、先行するハマキョウレックス事件(大津地彦根支判平27.9.16、大阪高判平28.7.26)、長澤運輸事件(東京地判平28.5.13、東京高判平28.11.2)に、これら不合理禁止に関する初の最高裁判決(第二小法廷平30.6.1)が出ています。

<ハマキョウレックス事件>
 トラック運転手として配送業務に従事している契約社員と正社員の賃金等(「家族手当」「一時金」「定期昇給」「退職金」/(以下諸手当)「住宅手当」「皆勤手当」「無事故手当」「作業手当」「給食手当」「通勤手当」)に相違があることは労契法20条に違反しているという訴えに対し、最高裁は、同条は3要素を考慮して「不合理と認められるものであってはならない」とするものであり3要素の違いに応じた「均衡のとれた処遇を求める規定」であると解し
(1) 契約社員と正社員の労働条件(賃金等)の相違が同条に違反するものであっても、契約社員と正社員の労働条件が同一のものとなるわけではなく、正社員就業規則が契約社員に適用されるものでもないと同条の補充的効力を否定し、契約社員が正社員と同一の権利を有する地位にあることの確認を求める「確認請求」、それを前提とした諸手当の「差額賃金請求」を否認しています。
(2) 不法行為に基づき諸手当の差額に相当する額の「損害賠償請求」については、3要素の第1要素「職務の内容」に違いはないが、第2要素「変更の範囲」に関しては正社員に「全国規模の広域異動の可能性」、「職務遂行能力に見合う等級役職への格付けを通じて、将来(会社の)中核を担う人材として登用される可能性」により違いを認め、そこから諸手当のそれぞれについて不合理と認められるものであるかを検討しています。
○ 「住宅手当」は、正社員が転居を伴う配転が予定され住宅に要する費用が多額となり得ることを考慮して不合理を否認しています。

● 皆勤手当」は、皆勤を奨励する趣旨に差異が生じるものではない(勤務成績によって昇給することがあるとした2審とは事実認定に相違-原審差し戻し)。
● 「無事故手当」は、優良ドライバーの育成や安全な輸送による顧客の信頼獲得を目的としている。
● 「作業手当」は、特定の作業を行った対価として支給されるもの。
● 「給食手当」は、食事に係る補助として支給されもの。
● 「通勤手当」は、通勤に要する交通費を補填する趣旨であり、有期・無期によって交通費が異なるものではない。
 これらは、異ならない「職務の内容」、異なる「変更の範囲」から必要性が異なるものではなく「その他の事情」もうかがわれないとその相違を不合理と認めています。

<長澤運輸事件>
 バラセメントタンク車の乗務員として勤務して定年退職した後の嘱託乗務員に正社員の各賃金項目が支払われないことは不合理な労働条件の相違であるという訴えに対し、最高裁は、第1要素「職務の内容」だけではなく嘱託社員に業務の都合で配置転換等があることから第2要素「変更範囲」も違いはないとしながらも、「定年退職後に再雇用された者であること」を第3要素「その他の事情」として考慮し、さらに「賃金の総額を比較することのみ」によるのではなく、賃金項目の「趣旨」を個別に、かつある賃金項目がその他の賃金項目を踏まえて決定される場合もあり得ることを考慮して
○ 「能率給・職務給」は、労働組合との交渉を経て嘱託社員の「基本賃金・歩合給」を年収に配慮したものに変更している(定年退職前の79%程度)。
○ 「住宅手当・家族手当」は、住宅費の負担補助・家族を扶養する生活費補助として、正社員には幅広い世代が存在している。
○ 「賞与」は、労務の対価の後払い、功労報償、生活費補助、意欲向上など多様な趣旨を含み得る。
(これらに対して嘱託社員は、老齢厚生年金の受給予定、報酬比例部分の支給開始までの調整給、退職金の支給などが考慮される)
○ 「役付手当」は、指定された役付者に対してのもの。
 以上を各々の事情から不合理を否認しています。

● 「精勤手当」は、同一の「職務の内容」から皆勤を奨励する必要性に変わりはなく、相違は不合理と認め、それを計算に含めた「超勤手当」と共に不法行為に基づく損害賠償責任を負うとしています(原審差し戻し)。

 この2つの最高裁判決の表面的な結果を見て正社員の「基本給や住宅手当は容認された」などと捉えることはできません。
 例えば、日本郵便(東京)事件や同(大阪)事件の一審が比較対象とした転居を伴う異動が予定されていない正社員(=新一般職、旧一般職は元国家公務員)に支給していた「住居手当」を不合理と認めたことはこの最高裁の判旨に適うものです。

3.今後の賃金制度について

 日本の複合的な賃金制度の中でも「手当」は、支給要件による可変的な賃金として職務関連手当にしろ、生活関連手当にしろ、正社員間の公平・公正に配慮して設定されてきました。
 しかしながら、今後は非・正社員との均衡も考慮する必要があります。
 趣旨なく非・正社員に「全く支払わない」ということにはリスクがあります。
 正社員にのみ支払うべき手当等が不合理でないと確信できるものならば就業規則にその趣旨を記載して包括的な合意をとっておくこと、労働組合がある場合は交渉を経て労使合意しておくことが重要です。
 不合理とされる可能性があるものならば正社員の手当を廃止しようという考えも出てくるでしょう。
 しかしながら、逆に非・正社員に手当を支給すること、すなわち諸事情が渾然となった賃金の総額から手当を分離することは、その職務価値としての基本給を純化することに繋がるので検討すべきことです。
 基本給については、第1要素と第2要素が組み合わさったものと捉えることができますが、その価値のとらえ方によっても、不合理であるか否かの判断は変わってくるものと思われます。

<同一職務同一賃金>
 これまでも「同一労働同一賃金」が原則だから、(「属人的」という言葉のなかに性別・学歴等に能力をまで並列させて)職務給の導入を推進すべきという論調は何度もありました。
 しかしながら、戦後、あらゆるアメリカ的な制度や文化を受け入れ、モノやビジネスを取り入れてきた日本に、「なぜ職務給が普及してこなかったのか?」という疑問から考える必要はあります。
 欧米で主流とされている職務給は、18世紀の産業革命以来、職業を基に結成された労働組合の要求・交渉によって形成されてきた長い歴史があり、欧州では今も産業別の団体交渉や労働協約が機能しています。
 そこは「賃金は労使による自主的な決定が原則」としても企業別組合が主流である日本と前提を異にしているところです。
 また、日本の賃金制度は、労働者としては食べていくお金であり企業としては労働力の再生産費用である「生活給」がベースになっていますが、それは欧州と日本の社会保障レベルの格差を前提とせざるを得ないものです。
 そして社会的には、賃金の市場価格が確立しないまま、職務給が非・正社員と正社員との均衡をはかるために「職務分離」に結びついていけば、社内の雇用形態身分による処遇の格差が、社内の固定化された職務身分に置き換わるだけで、むしろ同一労働価値同一賃金原則から対立する性格を持ち得ます。

<状況変化と長期雇用>
 青山学院大学大学院国際マネジメント研究科の須田敏子教授は、(変化していく状況のなかで問題・課題であるとしながらも)日本型人材マネジメントを、長期雇用を中心として
 (1) 人事考課付き年功制、
 (2) 遅い昇進・選抜、
 (3) 人ベースの格付けと賃金決定、
 (4) ローテーションを含む内部人材育成、
 (5) 半ジェネラリスト・半スペシャリスト型の一律的人材育成、
 (6) 新卒一括採用等が相互に補完しあったものであると分析されています(平29.10.18賃金管理研究会での講演より)。

 それらは長期雇用のなかにあって正社員のモチベーションを維持し、なによりも会社への高いコミットメント、ロイヤリティーを確保して、高品質・高生産性を実現してきたものです(最善慣行としての「トヨタの人材マネジメント」を想起)。それは「合理的な労使の慣行」であると言えます。
 年功制への批判はあっても長期雇用自体を否定する論調は、不勉強にして私は多く見ることがありません。

 人事賃金制度は、技術革新のように時代を前に進めたものが有利というものではありません。
 例えば、年功序列は不合理であるから人材は外部調達すべきとして雇用の流動性を促進する人事賃金制度にしたとしても、現に外部人材が豊富に存在していなければその施策は意味をなしません。それで人材が流失したならば ・・・ や。
 今後、暫時変革を進めていく必要はありながらも、日本の人材マネジメントの思潮が長期雇用から離れることは考えにくいものと思われます。
 変化していく環境のなかにあって変革を求めながらも、個々の企業特性や企業ニーズ(社員ニーズを含む)に即した人事賃金制度を導入していくことが誠実な態度であると、私は思います。

4.人材の育成と活用の仕組みを
 非・正社員の賃金問題は同時に、優れて比較対象となる正社員の賃金問題でもあります。それでは通常の労働者たる「いわゆる正社員」も「多様な正社員(平26.7.30基発0730第1号)」も含めて、正社員とは何でしょうか?

<総合決定給の限界>
 同一労働同一賃金ガイドライン案(平28.12.30)は「無期雇用フルタイム労働者と有期雇用労働者又はパートタイム労働者の間の賃金の決定基準・ルールの違い」があるとき、その要因として両者の「将来の役割期待が異なるため」という「主観的・抽象的説明」では不足であるとしています。
 それはまことに蓋然性のある注意しなければならない指摘です。
 さて、人事賃金制度が確立していない中小企業の正社員就業規則(賃金規程)に、基本給はどのように定められているでしょうか?
 「基本給は、本人の職務内容、技能、勤務成績、経験年数を考慮して決定する」等。
 これは、「総合決定給」と言うものです。

 就業規則の必要記載事項の「賃金の決定の方法」とは、「賃金ベース又は賃金額そのもののことではなく」「賃金決定の要素や賃金体系等のこと」(平23.2.1労働基準法コンメンタール)とされていますが、要素を列挙するだけならば非・正社員と正社員の賃金に違いがあるとき、「不合理ではない」と説明するのに充分なものとはいえません。

<人材育成・活用の道標>
 社員に「将来の役割を期待する」のであれば、客観的で具体的な実態を伴う、合理的な人事賃金制度を導入していく必要があります。
 それなくしては、非・正社員が「変更の範囲」に入ること、すなわち「通常の労働者への転換の推進(正社員登用)」をしていく際の基準にもならないでしょう。
 今後、非・正社員も含めた人材を活用していくには、
 (1) 非・正社員と正社員の不合理ではない区分を維持しながら均衡を進め、かつ登用制度を実効あるものにしていくか?
 (2) 格付けの範囲を広くして非・正社員を包括し、その中で人材の育成・活用を実施していくか?

 実際に、顧問先で非・正社員から登用され基幹社員にまで昇格していった人や(育介法によってすでに「短時間正社員」として実現している)短時間勤務をしながら人事考課で高い評価を得ている人を見ると、正社員とは、単に「無期雇用フルタイム労働者」というだけではなく、「長期雇用のなかにあって人材育成と活用の対象となり、本人にとっては自己成長努力が課せられていることに合意が形成された者」と捉えることができます(私見)。

 人間の価値は可能性にあります。

 区分するにしろ、登用するにしろ、包括して活用していくにしろ、人材の育成と活用の道標である人事制度を設計していく必要は、これまで以上に求められていくことでしょう。
 その主柱は、等級(格付け)制度です。それは人事制度と不可分に関連した賃金制度の土台であり、それを運用していく人事考課制度の前提にもなるものです。
 主要な人事等級(格付け)制度には、次のようなものがあります。

<職務格付け制度(職務給)>
 代表的なポイントファクターでは、職務分析(個々の職務について、その内容・性質、作業条件、責任範囲、能力要件を明らかにする)をして、職務基準書(職務内容の重要度・難易度、職務遂行上必要な知識・技能・技術、心身の負荷、責任の重さ等)にまとめ、それらの要素ごとに点数化(分析型職務評価)をして、その仕事の職務価値を測定し、賃金を決定します。仕事に人をあてはめるもので、短期的に見れば効率的です。

 もともと人材育成を目的にしたものではありませんが、1966年にF・ハーズバーグが「労使関係部門は2つの部門に分離されるであろう」と予見したように賃金管理部門とは別に人材を育成するための人材開発部門を設定している企業は多くあります。

 しかしながら、
 (1) 価値が定まった職務の変更が同時に不利益変更になる場合があるので「配置」に柔軟性を欠くことになる。
 (2) 分析型職務評価には時間コストがかかり、職務についての状況変化に対応していけない。
 (3) 厳密な職務の定義は、人のパフォーマンスを縛ることになりがちである。
 (4) そして、原価主義であり、職務拡大=昇格(=昇進)に対するインセンティブは強まるものの、早い出世競走によって「勝ち組は権利化して働かない」、「数多くの負け組は諦めて働かない」と長期雇用のなかではモチベーションを維持することに難点があります。

<役割等級制度(役割給または範囲職務給)>
 役割とは、組織から与えられる職責に人個人の目標チャレンジを併せたもの(楠田丘)で、役割給とはその合意によって決定される(プロ野球の年俸更改交渉に似ている)ものですが、現在、日本の大企業に導入が進んでいる役割給は、前述のポイントファクターの欠点を補正するために欧州でもトレンドになっている職務全体を緩やかに定義して人が活躍する範囲を定めるもの(非分析型職務評価)に近いのではないかと思います。

<職能資格制度(職能給)>
 職能資格制度は、職務調査(全ての仕事の洗い出し、仕事のレベル分け、分担状況を把握し、どの程度の知識・技能があれば「その職務ができるか」というとらえ方で、職務を人基準の職務遂行能力に転換して、職能要件書(職種別・等級別の全ての仕事の内容・習熟要件・修得要件・修得方法)を作成します。
 職能資格による昇格と企業ニーズによる職位を分離して、使用者は不利益変更の憂いがない自由な「配置」を可能にします。また制度そのものが内部的な人材育成として機能します。
 しかしながら、
 (1) 変化が激しく低成長・マイナス成長下では、個人のキャリアの後半で長期決済型の昇給を維持することは困難。
 (2) そして「能力は蓄積するが陳腐化します(楠田丘)」。
 (3) 職能要件書の作成にも時間コストがかかり、その必要能力についての状況変化に対応していけない等の問題があり、賃金カーブの修正や一定の職位以後には役割給を導入するなどの施策が必要になります(楠田丘)。

<行動能力等級制度(貢献給)>
 好サンプルとしての社員にインタビューをして、成果を実現する職務行動をするためには、どのようなスタイルで「しているか」という複数の必要行動能力(コンピテンシー)を職種別に抽出し、新卒社員から経営者まで、職業人として成長していく過程をレベル展開して等級を定義します。
 人ベースでありながら成果を指向するもので、かつ人材育成にも有効です。職務内容ではなく行動スタイルでの格付けなので状況変化に柔軟に対応できます。定義した格付けの上に範囲職務給や蓄積型の賃金表を乗せることも可能です。

 人材の育成と活用のためにその企業に適合した人事等級(格付け)制度の導入が求められます。
 厳密にする必要はありません。
 しかし曖昧ではなく、等級間の差異、特に正社員1等級とは何かがわかるものでなければなりません。

5.社会保険労務士の役割
<調停代理>
 働き方改革関連法案のなかには、社会保険労務士法第2条の第1項1の4号の紛争調整委員会における調停の手続きについて紛争の当事者を代理する業務の対象となる法律のなかには、この適用範囲を広くした「パートタイム・有期雇用労働法」があり、同法と同様に不合理な待遇の禁止等を定めた改正「労働者派遣法」が加わります。
 職務の拡大は責任の拡大を伴います。

<人材活用と生産性の向上を>
 法改正の主旨が「非正規雇用労働者の待遇の改善」にあるならば、それを正社員の賃金等の「引き下げ」をもって均等・均衡を実現することは主旨に反することになります。
 労働契約法9条・10条に定められた不利益変更の制約もかかります。

 前述した日本郵政が労働組合と交渉し「住居手当」を廃止することが報道されていますが、これには10年の経過措置があり、実際には基本給との調整等が考えられ、これをもって不利益変更の例とすることはできません。
 しかしながら、賃金原資を一定とするならば、日本の正社員の賃金が時間の経過とともに昇給する性質をもっていることから、「引き下げる」ことはなくとも、昇格の抑制、昇給カーブの緩和など、将来に向かって賃金ベースが低下していくことは考えられます。

 それを防ごうとするならば、労働生産性を向上させるしかありません。

 日本の時間当たり労働生産性は、OECD加盟35カ国中でも20位と低い順位になっています(2017.12.20日本生産性本部)。
 1時間あたりの労働生産性の計算式は「付加価値額」÷「労働者数×労働時間」ですが、分母である人・時を低くするために、ムダな「時間を無くしていくこと」だけではなく、分子である付加価値を高めるために、創意工夫する「時間を創っていくこと」が求められます。
 それに社会保険労務士は、関与していくのです。

生産性賃金管理士進士 阿世賀 陽一